2016.07.24

龍次郎さんのこと その8ー龍次郎さんと「風土と建築」

IMG_0353「風土と建築」という小冊子が残っています。
建材研究家である龍次郎さんが、日本の建物にとって湿気が大きな問題であり、セメント防水剤「マノール」がいかに重要な働きをするのかを、わかりやすくかつ、熱っぽく語った冊子です。

一部を引用しますと、
”木造防火建築として外壁に鉄網セメントモルタル仕上壁が一般に応用され耐火構造の手法としては効果的でありますが、多孔質のセメントモルタル壁は、雨水、湿気の滲透によりセメント中に含有する可溶性塩類の為数年ならずして、使用鉄材、木材等は酸化腐蝕し、その耐久性を失うばかりでなく、物品の保存、国民の保健衛生の上から、完全な防水防湿的建築が必要とされる所以であります。”                     (風土と建築より)

昔から使われてきた木材や土、漆喰、石など、多孔質の建築材料は、その気孔の中の空気の作用で夏は涼しく、冬は暖かく室温を維持するような働きをしてくれるのだから、湿気はこの気孔を塞いでしまい、温熱環境にもよろしくない。といった説明が熱い調子で続きます。

この龍次郎さんの考えを具体化した矢中の杜では、木材がふんだんに使われ、漆喰などの左官壁や畳と、湿気を溜め込まず乾きやすい材料が使われています。さらに室内の湿気対策として、建具の足元の無双窓や、照明器具周りの排気口などが、設計段階から計画され、自然に新鮮な空気が入り、湿気が外に出て行くようなシステムとして振る舞うよう設置されています。

IMG_0272邸宅が使われなかった約40年間も、その自然な換気がそっとそっと続いていたわけです。エネルギー消費なしの24時間換気ともいえましょうか。

これは矢中の杜が「龍次郎さんによる実験住宅」と言われる所以の一つで、湿気対策の実験は大成功。龍次郎さんの得意げなお顔が目に浮かぶようで、「お見事でございます」と声をかけたい気分になるのです。

夏の矢中の杜は驚くほど湿気が感じられません。邸宅に一歩足を踏み入れると、空気がさらりとしていて、ごろりと横になって昼寝をしたいような気持ちよさ。庭の緑と高低差のある敷地も相まって、なんとも心地いい風が吹き抜けて、眠気を誘います。
夏の矢中の杜のさらりとした空気、ぜひ体験してください。

次回の公開は7月30日(土)です。

ナカムラ(そのかわり冬はちょっと、いえ、だいぶ寒いです)

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