こんにちは、早川(公)です。
第31回の記事の続きです。
AAPAによる旧矢中邸での記念すべき第1回公演では、ダンサーが邸宅を案内するガイドの体をとりながら進みました。
でもダンサーによるガイドは形こそガイドですが、その身体は邸宅の形状(例えば手すり)に沿ってゆらゆら動いたり、邸宅の質感(例えば、砂壁)を確認するような素ぶりを見せます。
通常とは異なる身体の動きは、それを見るだけで新鮮です。
ですがパフォーマンスでは、そこに邸宅の「歴史」も再現されていきます。
かつてそこに住んでいたであろう女中の動きは、当時の過去が再現され、
掃除をしているかのような動きは、当時の現在が再現されます。
そして、僕たちは、パフォーマンスの中に過去と現在の間にあった「ブランク」を読み取ります。
時間は過去から現在へ直線的に進むわけではありません。過去も現在も絡み合いながら今が形成されているんだという感覚をダンサーは身体を使って表現しています。
この公演に先立って、僕は神奈川で開かれたAAPAの公演を見てきました。
JRの高架下、店舗の屋根の上で人が真っ直ぐに立てない不自由な場所で自由に踊るとはどういうことなのか。
そんなパラドックスを表現する方法に、ぼくは魅了されたのでした。
AAPAのパフォーマンスの特徴は、このパラドックスの表現にあると思います。
過去は現在の営みがなければ過去として成立しない。
過去と現在の変わっていく関係の中で、変わらないものはなにか。
朽ちていくはずだった建物をそれでも守っていこうとする中に何があるのか。守り始めたばかりの当時(2010年)の旧矢中邸は、そうした変化を表すちょうどいい場所だったんだと思います。
「アートと地域活性化」というのは、2000年代から認知されてきた関係です。
それはすぐにお金の価値に変換されるものでありませんが、私たちには見えなかった(見ようとしなかった)ものを浮かび上がらせるための格好のコミュニケーション・ツールなんだなと改めて思います。
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次回の公開は、8/26(土)です。
暑さが戻ってきている今日のこの頃ですが、変わりゆく気候の中で変わらない邸宅を味わいにいらしてください。