2014.05.11

セメント防水剤に就て①

yanaka_logo

こんにちは、たまに更新するkouです。
今回は、矢中の杜を設計した矢中龍次郎氏の講演録を書き写したいと思います。
資料によると、昭和十一年五月二十一日株式會社清水組本店(現在の清水建設)で行なった講演だそうです。
講演から七十年が過ぎていますが、ここには今でも住居を考える材料がたくさん詰まっています。

まだ全文書き写せてないのですが、徐々にアップしていきますね。

——
セメント防水剤に就て
昭和十一年五月廿一日株式會社清水組本店に於て

油脂化工社
社長 矢中龍次郎氏講演

目次 
セメント防水剤に就て
気候風土の関係
我国に於ける洋風木造建築の欠点
コンクリート建造物の科学的破壊作用
海水中のコンクリート築造物に就て
セメントの防水剤の効用とコンクリートの化学的破壊作用の防止
既成建築物の防水防湿塗料
建築材料の気孔と耐久衛星的関係

セメント防水剤に就て
抑もセメント防水剤は、今より三十年程以前英国の化学者が、発明発表せられたので御座ゐます。此の発明の動機は動植物の油より、「グリセリン」を分解する為に、油の中に適量の石炭を入れ熱を加へて数時間煮沸したる後、其儘放置する時は恰も石の如く凝固し、之を粉砕機を以って粉末となし、タンクに入れて蒸気を通じますると、油に含有して居る処グリセリンのみが熱湯中に溶け出して、脂肪酸石灰の結合物と全く分解せらるヽのであります。此の脂肪酸石灰は水に封して強度の反発力を有するものであり且つ耐水性のものであるから、吸水性のセメント、コンクリートに混和したら完全な防水コンクリートの出来る事が確認せられ、これが初めてセメント防水剤として、英国の市場に現はれたのであります。
 当時私も大連市に於て関東軍や満鉄の援助と受けて、大豆の蛋白質や油の研究中にたまゝ此の白色粉末のセメント防水剤が入手致しましたので、早速分析致しました処、脂肪酸石灰が主成分である事が判明し、之をセメントモルタル、コンクリートに応用して見ましたるに、既に汎発性を有する粉末でありますから、水を使用して練合すモルタル、コンクリートには、比重の差と水に浮遊反発するために、均質に混和が困難であるのと、一ヶ所に集合したる部分は、著しくモルタル、コンクリートの強度害す惧れのある事に気付きまして、以来満鉄の中央試験所応用化学科の援助も得まして、セメントに混和の便利な不変質の液体脂肪酸アルミニウムを基礎としたセメント防水剤の製法を完成し、各国に先んじて特許を得たる次第であります。 現在は各国共にセメントの防水剤は勿論、織物に応用する防水剤に至る迄、其製品の製法施工の方法等全く理想に近きまで進歩して参りましたことは、誠に結構の事と存じます。
 防水剤の詳細に付きましては最後に実験を御覧に入れる際同時に御説明申上げる事と致しまして、先づ防水剤の用途の本質と其職能並に気候風土の関係に就て、少し御話申上げたいと思ひます。

気候風土の関係
凡そ世界の各部分は、太陽熱の分布や、海洋と大陸の位置の関係や、地球の自転に依って支配さるゝ貿易風だとか、或は暖流から生ずる雨量や、雨季又は空気中の湿度等地球上の各部分は各々其自然的条件を異にして居るのでありまするから、欧米に適した方法も我が国に適さざる場合多く、故に自然的風土の差異を無視することの多くは、失敗に終わる事を十分留意せねばならぬ事であります。
 我が国は国防上からは勿論、地震国でありますから、耐震耐火建築を急務と致しますが、欧米諸国とは気候風土を異にするので、洋風建築を其儘直接的に採用する事は絶対に出来ないのであります。即ち日本の夏季は空気中に平均八十パーセント以上の湿気を含有し、誠に凌ぎ難き蒸し暑さと、不幸にも家屋に害菌の被害を蒙り易き事は、世界中に他に比較すべき国を見ないのであります。元来家菌の発生には温度と湿度との二つが同時に相結合したる状態を必要條件とするものであって、欧米各地に於ても我が国の様に温度と湿度を有するものでありますが、日本とは反対に夏が乾季で冬が雨季である関係、我が国の様に家菌の被害を蒙ることが少ないのであります。其代表的例は彼のエジプトであります。エジプトは日本の琉球と同緯度の南国で、沙漠の間に介在する最も空気の乾燥して居る国でありますから、太陽の光線がギラギラと厭伏的に強烈で、熱風が室内に吹き込むことが却って住人に耐え難く、其暑さを凌ぐ為に、窓の少ない厚壁の盲壁で包まれた通風の少ない建築が熱風を防いで涼しいのであります。日本の夏季は暑気と空気中の湿度が平行して増加する国でありますから、窓を閉め切る時は建物に湿気を含んで蒸し暑い許りでなく、器具や什器や衣類に至る迄一様に「カビ」が生え、建物は害菌に犯されて腐蝕腐朽する等の事は、全く欧米では見られぬ現象であります。故に雨と湿度の多い地震国の日本建築は、弾力性に富む最も乾燥し易き多孔質の木材を主體として、開放的通風換気の充分出来る木造建築が発達した所以であります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です