龍次郎さんのこと その28ー龍次郎さん、夏を考える

暑い日が続いています。加えてこの湿気!
日本の夏の特徴とはいえ、今年は格別なようです。

矢中の杜にはクーラーがありません。その代わり、湿気をためこまない工夫が建物全体に施され、さらりとした空気と吹き抜ける風が涼を感じさせてくれます。

満州で私立化学研究所をおこした龍次郎さん、その後日本に戻り、大正10年に油脂加工社を設立。セメント防水剤「マノール」を引っさげての帰国ですが、そのきっかけの一つとなったのは日本の気候、特に夏の多雨多湿の気候です。

以前もご紹介した龍次郎さんの著した冊子「風土と建築」にも、防水、防湿がいかに日本の建物にとって大切かが切々と訴えられています。
人体への影響、貯蔵した物品への影響などが多大である。加えて、火事や地震などの災害と違い、徐々に進み、軽微に見えるので無頓着になりがちでもある。けれども、間断なく侵されることで深刻になるので、放置すると取り返しのつかないことになるぞと、警鐘を鳴らしておられます。

「風土と建築」でまず言及されているのが、洋風木造建築をそのまま導入することの危険性です。一部を抜粋すると、
「洋風建築の腐朽に関しては理学博士川村清一氏が大正初期に於て『わが国に於ける洋風木造家屋と其の腐朽』と題して詳細な研究を発表されています。要するに洋風木造建築が早く腐朽する原因は、それが日本と気候風土が反対で夏期に空気の乾燥する欧米に発達した様式ですから日本の様な夏期非常に湿潤な国には適さないのであります。」 とばっさりです。

国立国会図書館デジタルコレクションで見ることができます。

龍次郎さんの時代は、明治以降、日本の伝統的な木造建築にも大きな変化が起こり、洋風木造建築が導入されたものの、単に直裁に導入するのではなく、気候風土に合わせるための工夫が必要だとの気運が起こった時代でもあったそう。これは、今現在主流となっている木造建築の施工方法の始まりでもあるのではないか。そう思うと、今も間断なくつづいている施工技術の研究の端緒ともなっているのだと、むやみに感慨深くなってきます。

龍次郎さんが発明されたセメント防水剤「マノール」はセメントなどに混ぜ込んで防水性能を発揮させるもの。建築物の強度に直結する防水、防湿のための対策を、担うものです。現在の木造建築は、それに加え、壁の中などの湿った空気をスムーズに外に出せるような工夫が加わっていますので、木材の大敵である湿気を防ぐために、さらに発展させた形になっていると言えましょう。
もし今、龍次郎さんがいらしたら、この先にどんな工夫をするだろうか、どんな対策を講じるだろうかと考えてみると、ワクワクするような、問題に立ち向かう勇気をもらえるような気分になるのでした。

次の邸宅公開日は7月29日(土)です。
8月12日(土)は夏季休館日になりますので、ご了承ください。

川村清一博士の『わが国に於ける洋風木造家屋と其の腐朽』は現在国立国会図書館デジタルコレクションで見ることができます。こちらから

ナカムラ

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