2021.08.05

“矢中の杜”をはじめた守り人の話 8 -邸宅が文化財になるまでの道のり つくば市文化財室へ相談編-

こんにちは。井上です。

月1回更新しているこの連載。活動の記録を残すということを目的に投稿していますが、書き手としては正直なところ「読む人いるかな?」「需要あるのかな?」なんて思ったりもするのです。

そんな折、学生時代の友人が「古民家再生プロジェクトの参考にしたいから」との理由で矢中の杜のブログを読んでくれていることを知りました。

独り言をつぶやくような気持ちで書いていたところに、そんな反応が来たものですから、思いのほか嬉しく感じました。

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さて、前回から、邸宅が「国登録有形文化財」になるまでの道のりについて書いています。

今回は、「文化財登録申請」の手続きについて、記憶を辿っていきたいと思います。

邸宅の調査を始めたのとほぼ同時期の2009年4月頃、私は一度つくば市の文化財室(現文化財課)に相談に行きました。

「ゆくゆくは文化財として守っていきたい、それに値する建物がつくば市北条にある」から、市の文化財室の方で何かしらの助力をいただけないか、といった話をしました。

それに対する職員さんの反応は、渋いものでした。

「あなたがいう建物のこと以前に、市内に、文化財に値する建造物がいくつもあることはわかっているが、現状文化財室は大きな遺跡整備事業に取り掛かっていて、それで手一杯の状況。その事業が落ち着くまでは、建造物に関してこちらから動ける余裕はない」と。

えええ~…

「じゃあ、その遺跡整備が落ち着くのはいつ頃になるんですか?」

「10年くらいはかかる」

えええ~10年…そんな待てない~

「ただ、こちら(文化財室)から動くことはできなくても、市民側から動きがあれば、もちろん対応します」

…な、なるほど。

私としては、調査や申請書類の作成などについて協力を得られないかと期待して行ったのですが、どうもそれは難しそうなので、これはもう自分たちでやるしかない、とこの時腹を括りました。

(余談ですが…この時は遺跡整備が落ち着く10年後ってどんだけ先よ、なんて思ったものですが、気がつけばその事業である「小田城跡歴史ひろば」が完成していました。いやはや光陰矢の如しです)

市の渋い反応は正直なところ少し残念ではありましたが、私自身、文化財保護が研究対象の専攻に所属していたので、空き家だったところから建物の調査、書類の作成、文化財申請までの一連の実務を行うことは物凄くいい経験になるはず!大学で講義を受けるのとはまた違う学びになりそう!というポジティブな気持ちもありました。

自分たちで調査をして、文化的価値も明らかにして、しっかり下準備をして…つまり「市民側から動いて」、再度チャレンジだ!

実は、これがきっかけの一つにもなって、私の修士論文のテーマも、邸宅の文化財的価値の評価を行うということに決めました。

修士論文の執筆が、そのまま邸宅の実際の文化財登録申請へと繋がっていく。

これほどモチベーションが上がることはありません。

調査結果を確認しながら、申請に向けて話し合いを重ねました

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それから1年後の2010年4月、再びつくば市文化財室を訪れました。

1年間かけて準備した、調査結果と申請書類を引っ提げて。

職員さんの方も、前回の相談以降、矢中の杜での私たちの動きについては気にかけてくれていたようで、今回は「では、文化財の申請を進めていきましょう」ととても前向きな対応をしてくださいました。

1年間がんばってよかったなぁと、じんわりと感じたのを覚えています。

初回の相談こそしょんぼりとしましたが、結果的には自分たちで申請までの下準備を一からやったことは本当に貴重な経験になりましたし、文化財申請以後、文化財室には何かと相談に乗っていただいたり、都度必要な助言等もいただく関係になりました。

もちろん、現在でも大変お世話になっています。

さてさて。

1年かけて申請までこぎつけたわけですが…

文化財の申請とさらりと書いてきましたが、具体的にはどういうことなのか?

これも記録を残さなければなりませんね。

今回、私たちが目指したのは「国登録文化財」です。

なぜこの種類の文化財を目指したのか。

「国」がつくのに、どうして市の文化財室に申請するのか。

2010年4月に申請手続きを開始してから、実際に矢中の杜が国登録文化財として認められたのは2011年の7月でした。

さらに1年以上もの時間を要することになったのです。

その間、どういうことが起こったのか?

次回は、文化財の種類や制度に関して、私たちの経験とも絡めながらもう少し掘り下げて書こうと思っています。

それでは、また。

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