本連載、2022年初更新となります。井上です。
本年もボチボチとマニアックな内容で連載を続けていきますので、どうぞお付き合いいただければ嬉しいです。
今回は、前回の記事の続編となります。
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めでたくデザイナーのHさんを迎え、NPO創設メンバーの顔ぶれが決まりました。2009年9月13日、顔合わせのため、ついに創設メンバーが一堂に会すことになります。
その中で、早速Hさんにファシリテーターを務めていただき、メンバーが各々思い描いていた矢中の杜像を一つにまとめてNPOの方針を定めるためのワークショップを行いました。
まずは、一人一枚白い紙を配り、中心に「矢中の杜」を書きます。そこからとにかく自由に、思いつくままに、矢中の杜から連想する言葉をひたすら書いていきます。いわゆるブレインストーミングというものですね。
紙面いっぱいに書き出された、矢中の杜のイメージ。メンバー各々の個性が出ていて、すでに面白い!
互いに共通する部分もあれば、自分では思いもよらない言葉が他のメンバーからは出てきたり。
まずは何の制限もないまま書き連ねたこれらの言葉を、次は「インフラ」「商品・サービス」「アプローチ」「パーソナリティ」「思想」のどれに当てはまるのか、分類していきます。それを皆で共有すると、秩序なく散らばっていたいろんな言葉やイメージが、ぼんやりとまとまってきました。
それを踏まえつつ、Hさんからは、こんな穴埋め課題(※)が出されました。
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矢中の杜は一言でいうと「 」ところです。
「 」な人に、
「 」を通じて
「 」のような価値をもたらし
「 」な気分にさせます
※この穴埋め課題の出典元は、「博報堂地ブランドプロジェクト (著)『地ブランド 日本を救う地域ブランド論』2006」だそうです。
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この「」を各々埋めてみましょう!というのです。
さて、皆はどんな回答をしたのでしょう。
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矢中の杜は、一言で言うと「クールな昭和にひたる」ところです。
10代、20代の東京的ライフスタイルに疑問を持つ人に
矢中の杜の邸宅、風景、時間を通じて
昭和の質感、のような価値をもたらし、
新しいライフスタイルに気づくような気分にさせます
ー
矢中の杜は、一言で言うと「昭和初期の生活文化を体験できる」ところです。
上質な生活文化に憧れを持つ人に
建築文化、地域文化を通じて
“懐かしさ”という新しい体験のような価値をもたらし、
安心感を感じられるような気分にさせます
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矢中の杜は、一言で言うと「古さと新しさ、俗とハイカルチャーのコントラストを持つ」ところです。
文化的、本質的価値を理解し、教養・文化的で豊かなライフスタイルを求める人に
昭和レトロな体験型サービスを通じて
昭和レトロの知識、教養のような価値をもたらし、
心地よく、豊かで満ち足りた時間を過ごせるような気分にさせます
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矢中の杜は、一言で言うと「みんなの別荘」のようなところです。
戦中・戦後の生活に興味を持つ人に
非日常的な体験を通じて
非日常空間、世代を超えた交流のような価値をもたらし、
レトロ優雅でお金持ちになったような気分にさせます
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矢中の杜は、一言で言うと「不思議なところ、魅力的なところ」です。
若者と老人に
筑波の部屋と料理を通じて
心とお腹の満足のような価値をもたらし、
昔に戻りたくなるような気分にさせます
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矢中の杜は、一言で言うと「時間が止まったり進んだりするミュージアム」なところです。
ハイカルチャーな人に
最高水準の保存、活用の取り組みを通じて
懐かしくも新しい昭和文化の体験のような価値をもたらし、
時間(時代)をさまようような気分にさせます
ー
矢中の杜は、一言で言うと「豪華な邸宅と広い庭園がある」ところです。
他県や県内の筑波山麓、北条エリアを観光に来た人に
独自の建造物や庭園を通じて
3世代前の生活の想像、体験のような価値をもたらし、
懐かしく、牧歌的な気分にさせます
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矢中の杜は、一言で言うと「日本の文化を感じる」ところです。
和風を求める人に
ハード、ソフトの和風の提供を通じて
ちょっと違う日本文化への認識のような価値をもたらし、
本物に触れる喜びを与えます
ー
より多くの人に
レトロな雰囲気を通じて
日本人の暮らしを考えさせ
「エコ」の時代を味わうとともに、将来あるべき生活を想像させる
ー
面白いですね~まさに十人十色です。
でも、表現こそ違えど、重なる部分もあるようにも思います。
この穴埋め課題、一体何に繋がるのか?
これは、矢中の杜の「Vision(大義、夢、目標」「Mission(使命、Visionを実現するためにすること」「Value(約束する価値)」を決めるためのものなのです。
しかし、ここまでの作業ですでに結構エネルギーを使っていたので、今回の顔合わせでのワークショップは一旦ここで終了。
後日、皆が回答した穴埋め部分を踏まえて、さらに話し合いを重ねていくことで、「Vision」「Mission」「Value」がまとまっていきました。
当時の話し合いの議事録を見ると、以下のように書いています。
■Vision
旧矢中邸の力強い昭和の雰囲気(質感)にひたることで、地域文化を再認識するとともに、各々の価値観や生活観を見直し、暮らしをより豊かにするきっかけをつくる。
■Mission
・邸宅・庭園の保存活用
・オーナーシップを持てるような環境づくり
■Value
・豊かな時間(各々の好きなように過ごすことのできる時間、くつろぎ、癒し)
・そのまま(作りものではない)の昭和空間
これがベースとなって、NPOの事業方針やブランディングが組み立っていったのです。
その後、折に触れて用いるようになった「古くて新しい矢中の杜」という表現も、この一連のワークショップが原点となっています。
10年以上も前のことなので、記録を掘り起こし掘り起こししながら書いていますが、当時の資料を見返すと、メンバーがそれぞれに真摯に、熱量のある向き合い方をしていたことを改めて思い出します。
10年以上の時を経て、NPO活動の中心の顔ぶれは変わりましたが、当時の創設メンバーの想いと、今活躍中の守り人たちの想い、きっと通じるものはあるんじゃないかなと思います。
今日の記事の最後に、この顔合わせを行った2009年9月頃の庭園の様子をお見せしましょう。
こんな状態の庭を見ながら、夢を膨らませていたのですね~。