2022.02.03

“矢中の杜”をはじめた守り人の話 12 矢中の杜のVision、Mission、Value

本連載、2022年初更新となります。井上です。

本年もボチボチとマニアックな内容で連載を続けていきますので、どうぞお付き合いいただければ嬉しいです。

今回は、前回の記事の続編となります。

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めでたくデザイナーのHさんを迎え、NPO創設メンバーの顔ぶれが決まりました。2009年9月13日、顔合わせのため、ついに創設メンバーが一堂に会すことになります。

その中で、早速Hさんにファシリテーターを務めていただき、メンバーが各々思い描いていた矢中の杜像を一つにまとめてNPOの方針を定めるためのワークショップを行いました。

まずは、一人一枚白い紙を配り、中心に「矢中の杜」を書きます。そこからとにかく自由に、思いつくままに、矢中の杜から連想する言葉をひたすら書いていきます。いわゆるブレインストーミングというものですね。

当時の資料です。残しておいて良かった!

紙面いっぱいに書き出された、矢中の杜のイメージ。メンバー各々の個性が出ていて、すでに面白い!

互いに共通する部分もあれば、自分では思いもよらない言葉が他のメンバーからは出てきたり。

まずは何の制限もないまま書き連ねたこれらの言葉を、次は「インフラ」「商品・サービス」「アプローチ」「パーソナリティ」「思想」のどれに当てはまるのか、分類していきます。それを皆で共有すると、秩序なく散らばっていたいろんな言葉やイメージが、ぼんやりとまとまってきました。

それを踏まえつつ、Hさんからは、こんな穴埋め課題(※)が出されました。

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矢中の杜は一言でいうと「      」ところです。

「      」な人に、

「      」を通じて

「      」のような価値をもたらし

「      」な気分にさせます

※この穴埋め課題の出典元は、「博報堂地ブランドプロジェクト (著)『地ブランド 日本を救う地域ブランド論』2006」だそうです。

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この「」を各々埋めてみましょう!というのです。

さて、皆はどんな回答をしたのでしょう。

 矢中の杜は、一言で言うと「クールな昭和にひたる」ところです。

 10代、20代の東京的ライフスタイルに疑問を持つ人に

 矢中の杜の邸宅、風景、時間を通じて

 昭和の質感、のような価値をもたらし、

 新しいライフスタイルに気づくような気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「昭和初期の生活文化を体験できる」ところです。

 上質な生活文化に憧れを持つ人に

 建築文化、地域文化を通じて

 “懐かしさ”という新しい体験のような価値をもたらし、

 安心感を感じられるような気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「古さと新しさ、俗とハイカルチャーのコントラストを持つ」ところです。

 文化的、本質的価値を理解し、教養・文化的で豊かなライフスタイルを求める人に

 昭和レトロな体験型サービスを通じて

 昭和レトロの知識、教養のような価値をもたらし、

 心地よく、豊かで満ち足りた時間を過ごせるような気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「みんなの別荘」のようなところです。

 戦中・戦後の生活に興味を持つ人に

 非日常的な体験を通じて

 非日常空間、世代を超えた交流のような価値をもたらし、

 レトロ優雅でお金持ちになったような気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「不思議なところ、魅力的なところ」です。

 若者と老人に

 筑波の部屋と料理を通じて

 心とお腹の満足のような価値をもたらし、

 昔に戻りたくなるような気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「時間が止まったり進んだりするミュージアム」なところです。

 ハイカルチャーな人に

 最高水準の保存、活用の取り組みを通じて

 懐かしくも新しい昭和文化の体験のような価値をもたらし、

 時間(時代)をさまようような気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「豪華な邸宅と広い庭園がある」ところです。

 他県や県内の筑波山麓、北条エリアを観光に来た人に

 独自の建造物や庭園を通じて

 3世代前の生活の想像、体験のような価値をもたらし、

 懐かしく、牧歌的な気分にさせます

 矢中の杜は、一言で言うと「日本の文化を感じる」ところです。

 和風を求める人に

 ハード、ソフトの和風の提供を通じて

 ちょっと違う日本文化への認識のような価値をもたらし、

 本物に触れる喜びを与えます

 より多くの人に

 レトロな雰囲気を通じて

 日本人の暮らしを考えさせ

 「エコ」の時代を味わうとともに、将来あるべき生活を想像させる

面白いですね~まさに十人十色です。

でも、表現こそ違えど、重なる部分もあるようにも思います。

この穴埋め課題、一体何に繋がるのか?

これは、矢中の杜の「Vision(大義、夢、目標」「Mission(使命、Visionを実現するためにすること」「Value(約束する価値)」を決めるためのものなのです。

しかし、ここまでの作業ですでに結構エネルギーを使っていたので、今回の顔合わせでのワークショップは一旦ここで終了。

後日、皆が回答した穴埋め部分を踏まえて、さらに話し合いを重ねていくことで、「Vision」「Mission」「Value」がまとまっていきました。

当時の話し合いの議事録を見ると、以下のように書いています。

■Vision

旧矢中邸の力強い昭和の雰囲気(質感)にひたることで、地域文化を再認識するとともに、各々の価値観や生活観を見直し、暮らしをより豊かにするきっかけをつくる。

■Mission

・邸宅・庭園の保存活用

・オーナーシップを持てるような環境づくり

■Value

・豊かな時間(各々の好きなように過ごすことのできる時間、くつろぎ、癒し)

・そのまま(作りものではない)の昭和空間

これがベースとなって、NPOの事業方針やブランディングが組み立っていったのです。

その後、折に触れて用いるようになった「古くて新しい矢中の杜」という表現も、この一連のワークショップが原点となっています。

10年以上も前のことなので、記録を掘り起こし掘り起こししながら書いていますが、当時の資料を見返すと、メンバーがそれぞれに真摯に、熱量のある向き合い方をしていたことを改めて思い出します。

10年以上の時を経て、NPO活動の中心の顔ぶれは変わりましたが、当時の創設メンバーの想いと、今活躍中の守り人たちの想い、きっと通じるものはあるんじゃないかなと思います。

今日の記事の最後に、この顔合わせを行った2009年9月頃の庭園の様子をお見せしましょう。

こんな状態の庭を見ながら、夢を膨らませていたのですね~。

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