こんにちは、井上です。
今回のタイトル「北条の奥座敷」は、ブログ連載を決めた時から、いつか書こうと思っていたテーマです。
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前回の記事で書いた、活動初期に抱えていた有料か無料かという悩みとも少し関係しますが、矢中の杜の地域の中での位置づけについてモヤモヤと考えていた時期に、地元のある方が言われたのが「矢中の杜は、北条の奥座敷」という言葉でした。
矢中の杜を残していくということは、邸宅単体だけでなく、北条という地域の中の文化遺産であるということも、常々意識して活動することが大切だと思っています。
できれば、多くの地元の方に知ってもらいたいし、矢中の杜は後世に残す価値のある、地域の貴重な文化遺産だという私たちの考えも伝わってほしい、と思っていました。
しかし一方で、前回の記事にも書いたように、有料であるために敷居が高いと思われたり、地元住民ではないメンバーがNPO活動の中心であることで、よくわからない団体・場所というイメージも持たれていた面もあったかと思います。だからこそ、無料にしてもっと入りやすくすれば、という助言も耳にすることになったのでしょう。
そんな中で、強烈に印象に残ったのが、「矢中の杜は、北条の奥座敷みたいなところなんだよ」という意見でした。
北条という地域には、矢中の杜の活動が始まるよりも前に、地域の情報発信・交流拠点として「北条ふれあい館」が開館していました。
そこでは地元の方々が中心となって、北条を訪れる人を迎え入れ、案内などをしています。入館や休憩は無料で、誰でも気軽に立ち寄れるようになっています。
「北条に来たら、とりあえずまずは北条ふれあい館に行くといいよ」という、言うならば、北条の玄関のような、そういう存在。
北条には、すでにそういう場所がある。
だから、矢中の杜が同じような場所になる必要はないんじゃないか。
玄関から、さらに奥に進むと訪れることができる魅力的な空間としての「奥座敷」。
それが、矢中の杜じゃないか。
その奥座敷があることで、北条というまちの魅力もさらに奥深くなる。
そういう位置づけで考えてみてもいいんじゃないか。
感銘を受けました。
ちょうど邸宅自体も、表通りからは奥まったところに立ち、木々に囲まれて建物の全容も見えないという、少し異質な立地。
表の喧騒から離れ、静かで落ち着いた雰囲気があって、
中に入れば広がる趣向を凝らした部屋の数々、豪華な意匠。
そこで過ごす非日常的な時間。
そうか、「北条の奥座敷」。
たしかに、そうかもしれない。
まちの玄関を担う先達への敬意を忘れず、私たちはこの「奥座敷」のような空間を守り、残していくことが、ひいては北条のまちの魅力の奥深さに繋がっていく。
とても素敵なことではないでしょうか。
地域での矢中の杜の位置づけに思案する中で、大きなヒントをいただいたような気持ちでした。
活動初期の頃、方向性を見失いそうになる度、ふと立ち返った言葉でもあります。
より多くの人に知ってもらう努力ももちろんするけれど、一方で、知る人ぞ知る、ちょっと特別で、贅沢な場所であってもいいんじゃない。
今でも矢中の杜の活動に協力してくださっているMさん。
ご本人は覚えておられないかもしれませんが、Mさんがぽろりと口にされた言葉は、私の記憶には深く刻まれています。




