2016.09.09

矢中の杜活動史 第6回—文化財の調査のこと

こんばんは。矢中の杜活動史、第6回目です。
邸宅の掃除の話題はまだまだありますが、早川さんから文化財登録のお話がありましたので、僕からは文化財としての価値を調べる、建物調査のことをお話ししましょう。
といっても僕は一度調査に参加しただけで、調査をとりまとめて論文にまとめたのは井上さんですので、僕が参加した範囲で書いてみます。

建物を調査・記録し、その価値を評価するのに、まず最初の大きな作業は建物の図面を起こすことです。
当時筑波大学大学院の世界遺産専攻の研究員として在籍していて、その後NPOのメンバーにもなったKさんのご指導のもと、建物の調査を進めました。同専攻の学生さんたちも、大学の近くで文化財調査をする機会として大勢参加し、僕もその中に混ざって行いました。

調査の方法は、2人一組でチームを作り、建物の部分ごとに分担して、方眼紙に平面図を描き起こしていきます。すごいのは、建物の寸法に関する部分はとにかく全部測ること。部屋の内寸はもちろんですが、建具(扉、窓など)の大きさ、柱の太さまで測るのには驚いたものです。また、建物の現状を測ること。伝統的な日本建築では、関東間の場合で柱の間隔が8畳間で2間=3,636mm、等の規格がありますが、それに合わせることはせず現況を記録します。測ってみると想定と違ったり、増改築された部分ごとに様式が違ったりすることもあるからです。
寸法のほか、建物の材質も見える部分については書きます。柱、壁といった部位が中心ですが、目視と触ってわかる範囲で記録します。木の材質までは専門家でないとわからないので、木、砂壁、漆喰、などと記録します。
一人が測り、一人が記録。A3版の方眼紙を野帳にして、ミリ単位で記録します。

調査風景です。右側の青いTシャツの人物が僕です。
調査風景

僕のチームで担当した別館2階の野帳がこちら。僕が測ってペアのNさんが記録しました。部屋の中に描かれている線は畳の並びや天井の形ですね。壁の記号の「土・カ」は土壁、「イ・カ」は板壁ですね。「フ」は襖です。何年かぶりに見ましたが、細かさにまじまじと見入ってしまいました。
野帳

チームごとに記録した野帳を集約し、CADで清書します。測った寸法をもとにデータを入れていきますが、入力の段階で、施工誤差や歪みを考慮し、当初の設計・施工がどのようなものだったのかを推定していきます。記録された寸法のほか、その地方の建築様式や、建物の建築年代なども考慮します。

こうしてできたのがこちらの図面。旧矢中邸の文化財的価値をまとめた井上さんの論文などに掲載されたのはもちろんのこと、矢中の杜のリーフレットや、オリジナル手ぬぐい(図面バージョン)にも掲載しています。
平面図

以上が建物の調査・記録です。少しは雰囲気が伝わったでしょうか。
建物の評価については、建物の建築経緯、特異性などから、その建物の希少価値がどこにあるかを調査します。これについては井上さんが担っていた部分なので、いずれ本人から紹介されるのを期待しましょう。

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次回の邸宅公開は10日(土)です。矢中の杜で、季節の移ろいを感じてみるのはいかがでしょうか。

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